At the Same Time


 旅行者であれば―小説家はしばしば旅行者である―世界の出来事の同時性について、間断なく自覚せざるをえない。みずからの世界と、すでに「帰国」はしていてもこれまでに訪れたことのあるきわめて異質な世界。
 それを意識するには痛みがともなう。だが、それに呼応して自問が始まる―それは共感の問題だ…想像力の限界の問題だ、と。世界がこんなにも…広がっていることにこだわって、これと同時に、あれも起こっている、という自覚を持続するのは「不自然」だ、という自問もあるだろう。
 そのとおり。
 しかし、私は答えよう。だからフィクションが必要なのだ―私たちの世界を拡張するために。

p323、スーザン・ソンタグ「同じ時のなかでー小説家と倫理探求(第一回ナディン・ゴーディマー記念講演)」『同じ時の中で』木幡和枝訳、2009、NTT出版

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