高槻 成紀『北に生きるシカたち(復刻どうぶつ社)』丸善出版 2013

「北に生きるシカたち—シカ、ササそして雪をめぐる生態学」(高槻成紀著、丸善出版(復刻版)、2013 原書はどうぶつ社 1992年)を読み終えた。この人の本めちゃくちゃいい。また読む。

シカは、個体数管理が叫ばれる害獣ですが、時代ごとの狩猟圧によって急激に増減してしまうことが知られていて、行政管理に向いていない、管理の難しい動物であることでよく知られる動物なのです。そう言われる意味がこの本を読んでよくわかりました。聞きかじってないで早く読めばよかった。

読んでいる途中に何度も書き留めたい文章がたくさん出てきたのだけど、書き留めきれず…。


第一章から第二章は大学のゼミ生や他大学の研究者を動員した、山の特定範囲内でのシカ密集度の測定(センサス)や糞の内容物分析といった地道な実証研究についての報告。そこから明らかになる冬期食料としてのササの重要性を、植物学的観点も大いに参照しつつ迫る第三章。ニホンジカ以外の偶蹄目についての研究などと自らのフィールド研究を照らし合わせ、より細密にシカの生態を描き出す第四章も面白かった。
第五章からは、膨大な先行資料、地誌などの文献、地元猟師や農家の語りから得られた、岩手県の五葉山のシカたちの数十年スパンの個体数の変遷の状況を読み解いていった。
そして、シカの個体数に影響する諸要因をより詳細に解明していき、かつ毎年の個体数の変動を観測・予測することで、シカとシカを取り巻く自然環境と人間とが適切に共存していくことができるのではないかという推論が出てくる。


本当に終わり際の結論の章から少し抜粋します。
なんの研究でもそうですが、時々著者の専門分野をめちゃくちゃ超えて、示唆的な言葉が出てくることがあるね。社会学の本とこういう本がどこかのページで繋がってたりするのですね、ほんとに。

http://pub.maruzen.co.jp/book_magazine/book_data/search/9784621087947.html

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・くりかえし述べてきたように、このような状況をつくり出して来たのは近代化という歴史の流れを疾走してきた我々を含む数世代の日本人にほかならないのだ。責任は我々にあるのである。(p239)

・五葉山のシカにとって適正な個体数調整が必要であるという主張の根底にあるのは、人間と野生動物とが共存しなければならず、そのためには生態学の知見がひとつの力になるはずだという私の信念である。(p239)

・自然が残されていることは誇るべきことでこそあっても、なんら恥ずべきことはないはずである。もちろんこのような価値観は現代のものであって、戦後しばらくの、国を挙げての経済復興にわき目もふらず邁進していた時代にそれを求めることはできないかもしれない。しかし本書[岩手県林業史]は一九八二年に書かれているのだ。そこには国の施策を守ろう、先進県に追いつきたいという意識しか見いだせない。このような姿勢が改まらない限り、自然を失うことにやっと「追いついた」時、新たに与えられるであろう目標—例えば破壊に要した経費の何十倍もかけてかつての自然を回復するといった目標—を後追いしなければならないという愚を繰り返すことになるだろう。後進性においてさえ「後進的」であるとはあまりに哀しいではないか。(p241)






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