『オリーブの森で語りあう』

あの経営者たちは、この地獄の堂々めぐりの外側にたって、ものを考えることが全然できなくなっていた。ぼくは鳥肌がたったな。しかしあとで、公開の朗読会やディスカッションで気づいた事なんだが、それとそっくりおなじような意識が、すでに多くの若者にみられるんだ。多くの人は、いわば黒い壁のまえに立たされているような感じを持っている。(p20)

ところが「それではなにをわたしたちは願っているのか?」
「なににいちばん価値をおいているのか?」とたずねると、森はシーンと静寂につつまれる。なにか提案をしようものなら、それこそ、たいてい異口同音の忠告がかえってくる。「もっと用心深くならなければならない。もっとずる賢く自然を搾取しなければ。そうすると自然のほうもすぐには気づかず、反撃もしてこないから」。じっさい、みんなはなにひとつ根本から変えようとは思っていない。ただもうちょっとずるく立ちまわろうとしているだけで、これまでのシステムにゆさぶりをかける気なんてないんだよ。自然を搾取することは不穏当であるとは思われていないわけさ。ぼくたちは自然の恩恵に浴しているわけだから、その自然になにかお返しをしなくてはならない。そういうことをみんなはわかっていない。(p22、ミヒャエル・エンデ)

『オリーブの森で語りあう』岩波書店

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